14世紀、北海の商業帝国フランドルで発行されたルイ2世・ド・マルの金貨「1フラン・ア・ピエ」。
荘厳な王の立像が刻まれたこの金貨は、一見「信仰と王権の象徴」に見えますが、実際には商人による商人のための《信頼装置》でした。
今回は、王の顔をしたこの通貨が、どのように中世の信用経済を支え、現代の金融システムの原型となったのかを紐解きます。
コイン情報:ルイ2世・ド・マル金貨
 
 
・発行者:ルイ2世・ド・マル(在位 1346–1384)
・名称:1 Franc à pied(金貨)
・重量:4.17g
・直径:31mm
・製造:手打ち
・用途:フランドル都市部で高額決済用
・金供給源:南ドイツ産(金はイングランドの羊毛貿易による対価)
・ヌミスタ希少指数:100(超希少)
この金貨は都市の商人ギルドと金融ネットワークにより発行され、主に都市間の大口決済に利用されました。
デザインに隠された“操り人形”の王
表面には王冠と剣、王笏を持つルイ2世の立像が描かれていますが、顔は無表情で足元は不安定。
背後にはゴシック様式の尖塔が立ち並び、威厳はあくまで「装置として演出されたもの」でした。
裏面には正十字と百合の花、トゥールーズ十字を思わせる三葉文様が刻まれています。
これらは信仰を装いながら、実際には商業都市の秩序を象徴する幾何学的なモチーフでした。
王は「神の恩寵」を名目に貨幣の顔として立たされただけで、デザインや発行の決定権は都市ギルドが握っていました。
商業帝国フランドルの信用経済
14世紀のフランドルは北海交易と毛織物産業の中心地であり、次のような特徴がありました。
イングランドから羊毛を仕入れ、南ドイツの金と交換する国際貿易
ハンザ同盟による交易と外為ネットワーク
ブルージュでは預かり証や手形が流通し、初期の信用創造が始まる
こうした都市ギルドとイタリア商人の金融が結びつき、フランドルは「海のベネフィット国家」としてヨーロッパ金融覇権の起点となりました。
ルイ2世──“器”として担がれた王
ルイ2世はヴァロワ家とフランドル伯家の血統を持ち、形式的に王権の正統性を備えていました。
在位38年と長期政権でしたが、実態は商人によって担がれた象徴的存在で、政治よりも経済秩序を安定させるための「看板」でした。
娘マルグリット3世はブルゴーニュ家と婚姻し、やがてハプスブルク帝国の基礎となる血統を築きました。
金貨が語る“信用経済の原型”
この金貨は、信仰と王権の仮面をかぶりながら、商人が経済秩序を作るための信頼装置として機能していました。
現代の中央銀行制度やタックスヘイブン、欧州統合システムの萌芽は、この時代の都市商業国家フランドルにその原型を見出せるのです。
まとめ
ルイ2世・ド・マル金貨は、商人ギルド主導の信用経済を支えた通貨だった
デザインは信仰や王権を装いながら都市の秩序を象徴する幾何学的モチーフだった
商人による商人のための“信頼装置”としての貨幣は、近代以降の金融システムの原型を示している
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