フィリピンの銀貨からその時代で 「誰が国を動かしていたのか」 をご紹介!
スペインに支配されていた頃はスペイン王の横顔
アメリカの支配下に入ればアメリカ文化そのままのデザイン
独立後はフィリピン自身の英雄たちが登場して
戦後は戦争の記憶や国家の理想を刻み
最後は政治のにおいがプンプンする“マルコス期の記念銀貨”まで。
たった数枚のコインを並べるだけで、
「フィリピンが誰に支配され、何を誇り、何を忘れたくなかったか」
今回の記事では、手元のコイン達を
スペイン領 → アメリカ領 → 独立後の英雄時代 → 戦後復興 → マルコス政権
ひとつの“歴史物語”として約100年分まるっと紹介
教科書では味わえない「時代の温度」が感じられるので、ぜひ気軽に楽しんでいってください。
① 1897年 アルフォンソ13世(スペイン領)
時代背景:フィリピンはスペインにがっつり支配されていて、税も文化も全部スペインのものだった時代。
・“占領されてる側”
・自分の国じゃない感
・国の若者(フィリピン人)が蜂起し始めた時期

フィリピン(スペイン領)1897(単年発行)
アルフォンソ13世
1ペソ銀貨
25g
silver .900
スペインからの独立革命期。
翌年にはフィリピンが米国に抑えられたため単年発行

ISLAS FILIPINAS
フィリピン諸島(=スペイン領フィリピン)
UN PESO
1ペソ(貨幣単位)
スペイン支配330年の“終わり間際”に作られたコイン
1897年はスペイン統治が完全に揺らいでいた時期。本国スペインも財政ボロボロ
フィリピン独立革命(1896〜)が真っ最中
② 1908年 1ペソ(アメリカ領)
時代背景:「スペインのあとアメリカに乗り換えられて、法律も学校も全部アメリカ式に変わっていった時代。」
・国が“別の国の持ち物になった”
・文化も価値観もアメリカ化
・治安は良くなったが独立はまだ先

フィリピン(米領)1908
女神像と米国国章
1ペソ銀貨
20g
silver 800
1901年から米領。
裏面はペソだが米国のドル圏に組みこまれている。
女性像(Liberty風)アメリカの象徴
金床とハンマー:“労働・文明化・近代化” の象徴。
火山(マヨン山):フィリピン固有のシンボル。

UNITED STATES OF AMERICA
1908
S(サンフランシスコ造幣局)
アメリカの国章
③ 1961年 ホセ・リサール(独立後・英雄の時代)
時代背景:「アメリカから独立して、フィリピンが“自分たちの国の象徴”を作り直していた時期。」
・フィリピン自身の歴史を掘り起こす
・リサールは“国を変えた文豪”
・知性の象徴が必要だった時代

フィリピン共和国 1961(単年発行)
1ペソ銀貨
silver 900
26g
英雄ホセ・リサール。生誕100年
冷戦期
米国の財政難を好機に独立・主権回復を果たした。

英雄三部作で共和国の理念を示す。
(知→行動→法)
ホセ・リサールはフィリピンの独立を、頭脳と思想で切り開いた超英雄。
日本とも深縁があり、処刑後に革命を爆発させた象徴的人物。
1896年:革命の直接の首謀者ではないが“思想の影響力が強すぎた”ためスペイン政府に危険人物扱いされ処刑される
④ 1963年 ボニファシオ(行動の革命)
時代背景:「武力蜂起でスペインに抵抗した“行動派の英雄”を称えることで、独立の原点を思い出していた時代。」
・国を作った“戦った側”の英雄
・国民の誇りを再構築
・社会の不安定さの裏返しでもある

フィリピン共和国 1963(単年発行)
1ペソ銀貨
Silver .900
26g
アンドレス・ボニファシオ、行動の英雄
独立ナショナリズムの裏にあるシルバー・ディプロマシー(銀による信用外交)のため発行

英雄三部作(リサール→ボニファシオ→マビニ)
アンドレス・ボニファシオは、フィリピン革命を実際に動かした“行動のカリスマ”。秘密結社カティプナンを率い、武力蜂起でスペインに真っ向勝負を挑んだ独立運動の象徴。
リサールが“頭脳”なら、ボニファシオは“炎”──フィリピンの魂を燃え上がらせた存在。
1897年5月10日革命の途中で、仲間内の政争(アギナルド派との権力争い)で処刑された
⑤ 1964年 マビニ(国家理念・思想家)
時代背景:「国をどう運営するか、その“頭脳・哲学”を象徴する存在を前面に出した時代。」
・討論・理念・頭脳派の象徴
・三英雄(知・行動・理念)を揃えて国家ブランドを作っていた
・戦後再建の真っ最中

フィリピン共和国 1964
1ペソ,銀貨,Silver .900,26g
アポリナリオ・マビニ
知の英雄
財政が厳しくなりつつも
銀の信用外交と国家理念をアピールするために発行。

英雄三部作(知のリサール・行動のボニファシオ・法制度のマビニ)
“革命政府の頭脳”と呼ばれた男
ポリオが原因で若くして下半身不随になっても革命を指導したレジェンド
マビニは「徳」=道徳的リーダー
アメリカ侵攻後、最後まで抗ったため軟禁&追放
1899:アメリカに捕らえられる
1901:グアムへ島流し
1903:帰国許可が出るも、すぐコレラで死去(38歳)
⑥ 1967年 バターン死の行進 25周年記念
時代背景:「第二次世界大戦で受けた苦しみを忘れず、“二度と繰り返さない”ための記念を作った時代。」
・日本占領の痛ましい記憶
・戦争の犠牲を悼む
・国としての一体感を作る狙い

フィリピン共和国 1967(単年発行)
バターン陥落25周年
太平洋戦争のバターン死の行進の日を記念。
対日戦時協力の象徴
1ペソ銀貨,Silver .900,26.73g
バターン死の行進とは:
太平洋戦争で日米軍が衝突したバターン半島の戦いで、敗れた米比軍約7万人が強制的に長距離移動させられ、過酷な状況で多くが命を落とした事件を追悼する記念日

HEROIC SACRIFICE(英語)
フィリピン共和国の理想を示す
表向きは戦没者慰霊、実際は軍事協力とドル強化という米国の洗脳、メディア
⑦ 1970年 パウロ6世訪問(マルコス政権)
時代背景:「独裁前夜のマルコス政権が“宗教の力を使って国のイメージを上げようとしていた”時代。」
・政治が宗教を利用した
・国を安定して見せたい政権の思惑
・冷戦でアジアが緊張していた時期
パウロ6世のアジア初訪問(1970)教皇パウロ6世は、冷戦ど真ん中の時代に初のアジア訪問。
その目玉が「フィリピン」。
フィリピンは世界最大級のカトリック国家。教皇が来る=国の“徳”が上がる
マルコス政権の“反共キャンペーン”と密接
1970年のフィリピンは
- ベトナム戦争が隣で炎上
- 国内で左派ゲリラが増加
- マルコスは批判を浴び始める
っていう、けっこうヤバめの空気。
そこで
「教皇が来た → 神に祝福された国家 → マルコス=安定の象徴」
政治的メッセージが込められてた。
1970年は“独裁体制に向かう加速前夜”
この2年後、1972年にマルコスは戒厳令を敷いて独裁化。1970年のこの銀貨はその“前兆の空気”を帯びてる。
- 国の象徴(教皇)
- 国の権力(マルコス)
- 国の通貨(ペソ)
この3つが1枚に同居するのは歴史的にもレア。
1970年 フィリピン パウロ6世来訪 1ペソ 銀貨

フィリピン共和国 1970年
パウロ6世来訪
東南アジア初の教皇訪問
カトリックによる反共的政治演出、マルコス政権下
PAGDALAW NG PAPA SA PILIPINAS
「フィリピンへの教皇の訪問」
PAPA PAULO VI
パウロ6世教皇(ローマ教皇)

PANGULO NG PILIPINAS
「フィリピン大統領」
FERDINAND E. MARCOS
フェルディナンド・エドラリン・マルコス
PISO 1ペソ
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