1953年、南ベトナムでわずか2年間だけ発行された“庶民のための三人娘アルミ貨”。
フランスとアメリカの傀儡政権がブリタニアやマリアンヌのように理想を託した女神像を刻みましたが、東南アジアの人々にはまったく響かず、わずか2年で姿を消しました。
今回は、このコインに込められた西洋的理想と、なぜ民心をつかめなかったのかを深掘りします。
コイン情報:1953年 南ベトナム「三人娘アルミ貨」
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・発行国:南ベトナム(ベトナム国)
・発行年:1953年
・額面:50 Xu(0.5 đồng)
・素材:アルミニウム
・流通停止:1955年(政変による)
・当時の価値:屋台のフォー1杯が約80Xu → 50Xuではおやつ程度
表面には3人の女性像が刻まれています。これは民族協和を象徴する擬人化されたイメージで、
キン族(主流民族)、山岳少数民族(モンタニャール)、クメール系またはチャンパ族を表現しています。
西洋式“偶像女神”が刺さらなかった理由
このコインのデザインは、ブリタニアやマリアンヌのような西洋の「国家の理想像」を模したものでした。
しかし当時の南ベトナムでは、こうした抽象的な女神像は国民にまったく響きませんでした。
理由は大きく3つあります。
1. フランス傀儡政権の限界
バオ・ダイ皇帝はフランスの操り人形で、国民からの支持は低迷。 通貨制度も軍票やドルが混在して混乱していました。 一方、北ベトナムのホー・チ・ミン政権は農地改革や民族自決を掲げて人気を集めていました。
2. 自分を投影できない女神像
農民は爆撃と徴用に追われ、少数民族は長年差別され、女性は政治から排除されていた時代。 「理想の女神」を押し付けられても現実とのギャップが大きすぎました。
3. 精霊信仰の地では神話が響かない
ベトナム農村の信仰は精霊や守護霊が中心で、国家神話に基づく女神信仰は根付かなかったのです。 東南アジアは、ギリシャやエジプトのような王権神話を持たず、土着のアニミズムが暮らしに根づいていました。
物語なき偶像が示唆した“敗北の予告”
このコインは、西洋的な理想をコピーしただけの“語れない存在”でした。
結局、民心を得られないまま1955年にバオ・ダイ政権は崩壊。
対照的に、ホー・チ・ミン率いる北ベトナムは土地改革と民族的物語によって民心を掌握しました。
コインは無言のまま、西側ルールの限界と敗北の兆しを示していたのかもしれません。
まとめ
1953年に発行された南ベトナムの「三人娘アルミ貨」は、西洋式の理想女神を象徴したコインだった
民族・農民・女性が共感できる物語を欠いたため、わずか2年で流通停止となった
暮らしに根づいた信仰や物語がない偶像は、人々の心をつかむことはできないと示した
参照



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